2004年7月

7月25日

早稲田ステートメント2続き

 さて例の早稲田の新聞記事の問題ですが、皆さん書けましたか? 苦労している人も多いみたいですね。私が一つ見本を書こうかなと思ったのですが、早稲田からお叱りを受けそうなので、今回は止めておきましょう。
 でも問い合わせがあったので、もう一つコツをお教えしておきますね。それは、大問題を選ばないことです。日本の憲法はどうなるか、とか、イラク派兵の未来は、などという問題はできたら避けた方がいいですね。受講者から「やっぱり世間のトレンドの問題がいいんでしょうね」なんて言われたけど、とんでもない思い違いです。
 私だったら、社会面か家庭面、あるい読者の声なんてマイナーな記事を選びますね。この問題は記事の取り上げ方のセンスも試されているわけです。誰も注目しない、ささやかな記事を選ぶだけで独創性はアピールできる。それに対して「えっ、こんな考え方が成り立つの?」という思考のアクロバットを見せる。こういう書き方はいかにも早稲田好みです。官僚的な作文、優等生的なステレオタイプは早稲田が最も嫌うところだと思いますよ。
 でも、今の若い人たちは、ステレオタイプに従うことを良いと思いこんでいるので、この問題は意外によい問題なのかもしれない、とボカボのスタッフたちと話したところです。何を書こうか迷っている人、参考になったかな?

7月21日

 ずいぶん長いこと三日坊主通信を書いていませんでした。それもその筈、新しい本二冊の締め切り直前だったのです。一冊はやっと書き終わり、組版作業も終わり、8月上旬には発売されます。題して「法科大学院志望理由書―問題発見と展開の技術」です。これまで、単なる心構えと答案中心の類書と違い、まったく新しい観点から、自分のアピール・ポイントを見つける方法論と実例を展開しています。乞う、ご期待!

 それからvocabowの方でも、受講者が7月になってから激増しました。とりあえず、早稲田を狙ってか、志望理由書・自己評価書コース中心が多いみたいです。スタッフを増やして対応しているのですが、忙しいの何の…朝から晩まで時間が空けば添削している。だから、三日坊主を書く余裕がない。受講者に送ったり、コメントを書いたりする時間がとにかくかかって、この二、三週間ほど目が吊り上がっていました。
でも、まだもう一冊残っているのです。それも9割は書き終わり、もう少しですけどね。でも、まだ予断を許しません。

 ところで、早稲田法科大学院の第2問が発表されましたね。「就職試験」の問題みたいという意見もあったけど、私はなかなか早稲田らしい、よく言えば軽快な、悪く言えばちゃらんぽらんな出題だと思いました。昔、シカゴ大学のPop Cultureの講座で書かされたよくあるテーマです。でも、これは誉めているつもりなんですけどね。

 さて、「この問題をどう書くんだ?」という質問が受講生を中心に相次ぎましたけど、書き方は簡単です。基本的には、「要約→背景分析→評価・批判」という構成でよいのです。取り上げた新聞記事を要約して自分が本質的意味を理解していることを示し、そのような現象が起こった背景・メカニズム・原因などを考察する。その分析に基づいて、現状の価値付けをし、足りないところを指摘し、「こうすればよいのでは」と提案をする。だいたいこんな感じですね。

 でも、ご用心! 早稲田は伝統的に発想の面白さを重視します。かつて学部レベルで小論文の問題を出していたときなんか、「表記・表現は問題にしない」という但し書きまで付いていた時があった。その分、アイディアに重点を置く傾向が強い。だから、常識的な分析なんかしたら、即減点(!)と思って良い。

 もちろん、新聞に載ったニュースだから、それほど素材として面白いものはない。叙述の仕方も画一的です。だから腕の見せ所は、背景分析の所です。この部分を普通小論文ではinterpretationと言う。訳語で言うと、「解釈」「翻訳」となる。Inter-はinternationalという言葉からも分かるように、「間」という意味。起こった出来事を他の文脈に置き直して、捉え直すことなんです。どんな面白い文脈の中に置き直せるか、が発想の勝負というわけです。

 たとえば、曽我さん家族の帰国を取り上げて、「家族が一緒になって良かった」なんて陳腐なことを書いたらダメですよ。だいたい「家族」とは何なのか、どうして視聴者あるいはマスコミは家族再会にそんなに興味を持つのか、このイベントは文化的・政治的にどういう意味を持つのか、さらには法律との関係まで、誰も気が付かないようなことと結びつけて、深く深く追求すべきです。もちろん、そういう自分のアイディアが生かせる事件とのマッチングも必要ですね。この頃の人は新聞を読まないから、よい訓練になると思う。