2007年6月
6/26

適性試験の終わり・志望理由書の始まり

大学入試センターの法科大学院適性試験が終わりました。ロースクールを目指している皆さん、自己採点はいかがでしたか?

今のところ、「思った通り点が取れた」という報告は比較的少ないようです。いつもよりもやや難しかったのかもしれませんね。志願者も少し減ったみたい。前年度から2,513人減。ロースクール入試もやっと落ち着きを取り戻したみたいですね。

しかし、ここで安心するのは早すぎ。適性試験が終わるとすぐ志望理由書が始まります。今までの傾向を見ていると、適性・分析力の点数がいい人は、意外に志望理由書・小論文の出来が良くないということが多い。志望理由書・小論文の配点は適性より最終的に大きいことが多いので、気をつけるべし。

これは大学入試などでもよく見られる傾向ですが、数学や英語の点数がよい人に限って、「どうしてこんな文章になるの?」と呆れるような文章を書く。おそらく、適性・分析力に必要とされる反復練習に時間を割いてばかりいると、文章的な発想と思考の展開に支障をきたすのでしょう。

数学だって思考能力を試す教科と言うけれど、初級段階ではほとんど機械的パターン練習に過ぎない。数学教師や教育評論家も本音の所では「数学は暗記科目だ」と思っている。数学の予備校講師はほとんど「数学は暗記科目だ」と言い切る。まして英語においてをや。

こういう機械的反復に慣れた頭脳は、自分なりの発想に基づいて思考を展開させることが苦手です。とくに社会の問題に言及しつつ、「自分は…」とアピールするタイプの文章が書けない。妙にプライヴェートな体験談になったり、逆にステレオタイプな表現に陥ったりする。社会を見据えつつ、自分の位置を確かめるという複眼的な訓練ができていないのです。

そういえば、今年の早稲田の志望理由書は「あなたが法曹になることが、社会にとって意味があり必要であることを、あなたの経験、能力などと関連付けて1500字で述べてください」という内容です。

ポイントが二つあることに注意しましょう。

1社会にとって意味があり必要である
2あなたが法曹になる

です。「社会」と「あなた」というキーワードが明示されていますね。これは、社会における「問題発見」とその分析、さらには解決に向かっての「自分なりの取り組み」を構想すべきだという私の常々の主張にほとんど沿った内容です。

もちろん「あなたの経験、能力などと関連付けて」の部分は、それを「現在の能力」からサポートしなさい、ということ。つまり、自分には現在これこれの能力・経験があるのだから、それと法律的知識が結びつけば、問題の解決に向かっていける、ということを示せばいいのです。

機械的練習に明けくれていた人が、ほんの一ヶ月ほどの間に、これらの問題にリアリティを持って答えるのが容易なことではないのは、おわかりですね? 

一つ一つ順を追って、本質的な問いを自分に化していかなければならない。「現在、どんな社会的問題があるか?」「そのメカニズムはどうなっているか?」「解決の方向はどこにあるか?」「自分はそれにどう貢献できるか」「現在の能力・経験はそこにどう役立つか?」等々。

さらに、他人に読んでもらって、感想・批判をもらうのも有効です。こういう文章は自己表現ではなく、自分のメッセージが明確に伝わるための機能的メディアと考えるべきだからです。ちかしい他人が読んでもわからないのなら、法科大学院の教授達にもわかりっこないのです。

最後まで気を抜かず、頑張りましょう!

6/20

ホワイト・ルーム♪

ついに1F「vocabow creative」がオープンしました。前にも書いたようにガラス張りなのですが、中はオフホワイトでまとめてあります。もうすぐ夏だから、小さな水槽に水草を入れてメダカを泳がせ、エジプト原産のパピルスもあしらった。中で作業する我々も何だか水槽の中に入っているような気分です。それをのぞきこむ道行く人々。

愛称はホワイト・ルーム。ある年代以上の人だったら、70年代初頭の曲を思い出すかもしれませんね。歌ったのはウォーカー・ブラザーズ。バッハを思わせる荘重なイントロから、In my room♪と切々と歌い上げる名曲バラードです。友人の家で、この曲がラジオから流れたときの何とも言えない雰囲気を思い出します。

あのころの音楽状況は今とずいぶん違っていて、洋楽全盛。J-POPなんて影も形もなかった。英語も分からないのに、ラジオ番組をいつもチェックして情報を仕入れていた。忌野清志郎の『トランジスタ・ラジオ』って曲を知っていますか? まったく、あの通りで「二人のそばにはいつもトランジスタ・ラジオ♪」なんて歌詞を聴くたびにノスタルジーに駆られる。

もちろん、この「ホワイト・ルーム」は懐旧の情に浸るために作ったわけではありません。まず、受講者の方々が気軽に立ち寄るためのものです。木・日曜を除く12:00から20:00までは誰かしらスタッフがいます。WEBやRealのスクールなどに関して、聞きたいことや相談したいことがあったら、ぜひどうぞ。明るい部屋で話すうちに、きっとよい解決法が見つかるはず。

もちろん、ボカボの新しいprojectをクリエイトするスペースでもあります。今年から来年、このスペースから発信していくprojectは目白押し。内容はまだ秘密ですけど、あっと驚く企画があると思う。二番煎じ、三番煎じと似たような企画ばかりが渦巻く日本の状況に喝を入れる!

もうお気づきかと思いますが「なるべく毎日更新するPhoto日記」もスタートしました。ボカボの周辺、神保町のいろいろな表情をオリジナルな視点で紹介します。どうぞお楽しみに! というわけで、ますますアクティヴになったボカボ。レトロな街・神保町からスーパー・クリエイティヴな情報を発信します! 近くにいらっしゃる際には是非お立ち寄り下さい。 m(_ _)m


6/12

神保町はジャズの街!

前にも書いたけど、原稿を書くときは、だいたい何か音楽を聴いています。最近その趣味が変わってきました。前はとにかくバッハ、それからハイドン、モーツァルトだったのですが、いつの間にかモダン・ジャズになってしまいました。

その昔、モダン・ジャズは「ダンモ」とひっくり返して呼ばれていて、レコードも高い。だから、暗く狭いジャス喫茶で聴くしかない。高校時代を過ごした仙台では、5軒ほどのジャズ喫茶があったのですが、私は「カーボ」という店に通っていました。

二人しか座れないテーブルが壁にくっついているだけの穴蔵のような店。照明も暗い。そこでジョン・コルトレーンとかMJQとかビル・エヴァンスとかウィントン・ケリーなんていう人々の音楽と鼻つき合わせていると、何だかクラーイ鬱屈した気持ちになる。

ときどき近くの大学の「綺麗なお姉さん」が向かいで珈琲を飲んでいる。70年代だからヒッピーファッションかな。それをややドキドキしながら見ている高校生の「私」。しかし目が合っても知り合いにはならない。コリアン・ドラマのような展開は不可能。サルトルの戯曲じゃないけれど『出口なし』という感じを噛みしめる。

大学に入って東京に出てきて、仙台よりもずっとジャズを聴ける環境になった。しかし、何だかカーボに通っていたときほど熱心になれない。ライヴにもコンサートにも行ったけど、ジャズは高校時代のあの曖昧でグチャグチャした時間と固く結びついている。そんなわけで、少しずつ聴く時間が減ってきていたのです。

ところが、神保町にオフィスを構えてみると、ジャズへの思いが復活してきたのです。そもそも神保町ではジャズをかけている店が圧倒的に多い。まず三省堂前のU珈琲店。壁にはブルーノートのジャズプレイヤーの写真までかかっている。ラーメン屋のHでは常時ボサノバがかかる。ジャズ・ヴォーカル専門の喫茶店もある。蕎麦屋で昼飯時にビリー・ホリデイがかかるという具合です。「ダンモ」系統の音楽にあふれているわけ。

一方で、古本屋だけでなく、中古CDやレコードを売る店も多い。昔高くて手が出なかったレコードが格安で手に入る。うれしくなって、昔高くて買えなかったものをいろいろ購入していまいました。ソニー・クラーク『クール・ストラッティング』のジャケットなんかは街を闊歩する女性のハイヒールの写真になっていて抜群にかっこいい。

その『クール・ストラッティング』をかけて、新装なったvocabow1Fのウィンドウから街ゆく人を眺めると(1Fは全面ガラスなのでよく見えるのです)、そのリズムが外を歩く人の歩行の姿と重なる。ソニー・クラークは神保町に住んでいたのではないか、という感じがするくらいピッタリ。

神保町の町並みは古いビルがたち並ぶ。モダンとレトロ。その矛盾した感じがジャズと合うわけ。たとえて言えば、貧しい中でプライドだけが高く、希望と失望がしょっちゅう入り交じる気持ちとか。「52段の階段を25歳の失業者がゆるゆると歩いている」。前にも神保町についての詩を引用したけど、この方向性が定まらない焦燥感もジャズと神保町に共通する。

若い頃は、その焦燥感にどっぷり浸かって身動きがとれない。でも、さすがに私も年を取って、こういうもやもやから遠ざかってきた。「若いときはつらかったナー」という懐かしさとして残っている。だから、余裕を持ってジャズ的焦燥感を鑑賞できる。

何だ! これって昔映画や小説でさんざん取りあげられていた「青春の終わり」というテーマじゃないか。私も他人に比べて成長が極端に遅い方だと思うけど、今ようやっと「青春の終わり」感覚をしみじみ実感しているのか。たんなるオヤジになったということかもしれないですね。

ところで、ロースクールを受験する皆さん、日弁連の適性いかがでしたか? もしかしたら、あれもやればよかった、これもやればよかったと焦燥感の真っ盛りだったりして。まだもう一度大学入試センターの分がありますからね。気持ちを切り替えて、平常心でさらっと行きましょう。この先、志望理由書・小論文あるいは自己評価書と越えなければならない山はたくさんある。

その意味で言うと、この期間に皆さんが聴くのは、私と違ってジャズでない方がよいかもしれませんね。S.リヒテルのバッハ「平均率クラヴィーア曲集」などはいかがですか? 着実で構築的、そのくせ快楽も欠けていない。勉強を進めるにはいい音楽ですよ。

6/8

vocabow creativeオープン!

やっとPHP新書が脱稿したと思ったら、あっというまにボカボの事務所拡張工事に突入してしまいました。今までは3Fが教室、4Fが企画室だったのですが、今月から1Fも借りて、さまざまな活動に使おうと思っています。題してvocabow creative! 6月18日にオープンします。 

イメージはインターネット・カフェならぬコンセプト・カフェとでも言ったらいいか。本やイベントの企画・制作もするし、片隅には快適な面談スペースもあって、vocabowの受講相談にも常駐スタッフが丁寧にお答えします。

世界最大の古書店街である神保町を散策がてら、ボカボ・カフェ(!?)にも立ち寄ってみませんか? もしかしたら、スタッフが淹れたおいしいコーヒーも出るかも…

そういえば、70年代ニューヨークのソーホーでは、倉庫を自分たちで改造して、アーティストのアトリエにすることが流行りました。そこから世界的アーティストたちが次々に生まれた。ちょっと規模は小さいけど、ボカボのNew Spaceもちょうどそんな感じ。ここから、たくさんの才能ある人々が世に出てほしいな。

インテリア・デザインはいつものように、ボカボの長谷眞砂子の担当。内装を工夫して、知的でおしゃれな空間に仕上げています。彼女の腕前も大したものです。道行く人が、いったいどんな空間になるのだろうと、改装中の1Fを興味津々でのぞき込んでいく。ガラス張りなので中がよく見えるしね。

でも、中から外を覗いた方が数段面白い! 人々の表情、歩いている姿勢、着ている服の違いなど、town watchingすると楽しいですよ。一度ぜひ来てください! 詳しいお知らせは近々HP上にのせます。